2020年5月11日月曜日

2020.3.29 本日の宣教

『 たとえ死の陰の谷を歩むとも 』 (詩編編23:16)

今年になって父親の本棚にあった鄭念(チェン・ニエン)という中国の女性が書いた『上海の長い夜』(Life and Death in Shanghai)という本を読みました。

 この本は、中国の文化大革命の時代に国民党政府の外交官未亡人であった作者が、迫害や拘置所での独房生活を通して、寒さと飢え、病苦と拷問に耐え、人間の尊厳を失わず生き延びた奇跡的な回想記です。チェン・ニエンは、夫を1957年に癌で亡くし、女優を目指す梅平(メイピン)という美しく優しい娘と二人で、洗練された居心地の良い家で暮らしていました。

66年代に毛沢東に扇動されて始まった文化大革命は、当時実権を握っていた党幹部、学者、旧地主の子孫などを「反革命分子」とみなし、紅衛兵と呼ばれた熱狂した学生・高校生による組織的・暴力的な吊るし上げが中国全土で10年間に及び横行しました。チェン・ニエンも資本家の手先として攻撃の対象となり、突然上海の家と財産を若い紅衛兵に暴力的に略奪・破壊され、669月に逮捕され拘置所の独房に収容されてしまいました。

娘と別れ離れになったチェン・ニエンは、劣悪な環境の独房で、繰り返される看守による暴力、罪の告白を強要する拷問、そして、何よりも孤独と病苦に耐え、19733月まで6年半の監獄生活を生き延びました。

 独房では、埃まみれのセメントの部屋をトイレットペーパーで清潔に保ち、劣悪な環境の中でも人としての尊厳を維持する工夫が描写されています。絶望的で孤独な日々の中で、窓から入ってきた小さな蜘蛛に目を凝らし、蜘蛛が正確に巣をつくる不思議さに、生命の奇跡、創造主である神様に感謝する描写は、読む人の心を打ちます。

 クリスチャンであったチェン・ニエンは、暴力的な迫害の最中に、詩編234節「死の陰の谷を行くときも、わたしは災いを恐れない。」を心の中で何度も暗唱し、耐え続けました。チェン・ニエンという一人のクリスチャンを通して、聖書を読めない環境の中でも、信仰が苦難を乗り越える力となることに改めて感動しました。

 今、世界中を新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れています。多くの人々が命を失い、感染する恐れと、経済的にも将来の不安で押しつぶされそうな我々です。どんな困難な中でも信仰を失わず、試練を希望に代えてくださる神様に祈りつつ歩みたいと思います。
                                            島田 茂

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